認知症・軽度認知障害があっても、人工内耳で聞き取りは改善する

「認知症があるなら、人工内耳を使っても効果は出にくいのではないか」
そう考えられがちですが、2024年のスコーピングレビューでは、認知機能低下、軽度認知障害、認知症がある人でも、人工内耳によって言葉の聞き取りが改善する可能性が示されました。
レビューの対象は13研究、計222人です。ただし、人工内耳が認知症そのものを改善するという研究ではありません。今回、主に確認されたのは「言葉の聞き取り」の変化です。
13研究で何が調べられたのか
研究チームは2023年12月までの文献を検索し、13研究を採用しました。
比較群を設けた非ランダム化研究は2件だけで、残りは単一グループ研究、症例集積、症例報告でした。ランダム化比較試験はありません。
そのため、結果は有望ですが、効果を確定したものではありません。研究の質にもばらつきがあり、認知機能低下も、専門診断ではなくスクリーニング検査で判定された研究が多く含まれていました。
認知機能が低下していても聞き取りは改善した
2研究では、軽度認知障害がある人と認知機能が保たれている人で、人工内耳後の聞き取り改善に大きな差はありませんでした。
別の3研究では、認知症や認知機能低下がある人にも改善は見られましたが、改善量は認知機能が保たれている人より小さくなっていました。
また、聞き取りの効果が2年後、7年後まで維持された報告もあります。一方、認知症の進行によって長期的な恩恵が失われた症例もありました。
つまり、認知症や軽度認知障害があっても人工内耳の効果は期待できますが、改善の程度は認知機能の状態や進行によって異なる可能性があります。
認知症が改善したとは言えない
認知機能を評価した5研究のうち、4研究で検査成績が改善しました。
しかし、同じ検査を繰り返したことによる再検査効果や、人工内耳によって質問を聞き取りやすくなった影響を除外できません。
難聴がある人は、質問を正確に聞き取れないだけで認知機能検査の点数が低くなることがあります。
したがって、検査点数の上昇を「認知症が改善した」と解釈することはできません。
有害事象の増加は確認されなかった
有害事象を報告した研究では、認知機能低下がある人で手術後の問題が明らかに増えたという結果はありませんでした。
ただし、13研究のうち8研究は、有害事象や人工内耳の不使用を十分に報告していません。対象者数も少ないため、「安全性が証明された」とまでは言えません。
生活の質、日常生活動作、認知症に伴う行動や心理面、家族や介護者の負担についても、ほとんどデータがありませんでした。
論文5〜6ページの研究一覧表でも、これらの項目は「報告なし」が大半を占めています。
人工内耳後は聞こえのトレーニングも重要
人工内耳は、手術だけで完結するものではありません。新しく入ってくる音を言葉や環境音として理解するための学習が必要です。
一般向けに言えば、音を意味へ結び直す「聞こえのトレーニング」や「耳の脳トレ」に近い過程です。
ただし、これは認知症を治療・予防するトレーニングという意味ではありません。
認知機能が低下している人では、装置の装着、充電、通院、調整、練習を家族や支援者が補う必要もあります。
ところが、今回の研究では、具体的な術後リハビリや追加支援の内容はほとんど報告されていませんでした。
まとめ
今回のレビューでは、認知症や軽度認知障害があっても、人工内耳によって言葉の聞き取りが改善する可能性が示されました。
「認知症があるから人工内耳は役に立たない」と一律に判断する根拠は乏しいと考えられます。
一方で、人工内耳が認知症を改善するとは言えず、生活の質や家族の負担への効果も不明です。
本人が改善したい会話や生活場面、認知機能の状態、術後に支援できる環境まで含めて検討することが重要です。
よくある質問
認知症があると人工内耳は受けられませんか
今回のレビュー結果からは、認知症だけを理由に一律に対象外とすべきとは言えません。
実際の適応は、難聴の程度、全身状態、本人の希望、術後の支援環境などを専門医療機関が個別に判断します。
人工内耳で認知症は改善しますか
現時点では、そのようには言えません。
認知機能検査の点数が上がった研究はありますが、再検査効果や聞き取り改善の影響を区別できないためです。
家族の支援は必要ですか
装置の管理や通院、聞こえのトレーニングを継続するために、家族や支援者の協力が必要になる場合があります。
ただし、最適な支援方法はまだ十分に研究されていません。
原論文
Dawes P, Cross H, Millman R, Leroi I, Völter C.
Do people with cognitive impairment benefit from cochlear implants? A scoping review.
European Archives of Oto-Rhino-Laryngology. 2024;281:4565–4573.
doi:10.1007/s00405-024-08719-5
※本記事は研究論文の内容を一般向けに整理したものであり、個別の診断や人工内耳の適応を判断するものではありません。
neumo 若林龍成メモ
論文では「人工内耳後は聞こえのトレーニングも重要」という話題があります。人工内耳は音を届けるための機器ですが、新しく入ってくる音を聞き分け、言葉や環境音として理解するには、練習が必要になる場合があります。
キクモアでも、人工内耳を装用している方にトレーニングしていただいています。利用者からは、「当初は妨害音に苦戦していたが、毎日続けるうちに音の違いが分かるようになった」という声が届いています。
ただし、これは個人の体験談であり、キクモアの効果を一般化するものではありません。
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