『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のヒューイ・ルイスさんがメニエール病 ―― 片耳難聴で25年歌い、人工内耳で会話は聞けても音程が分からず「音楽はもう人生の一部ではない」

ポッドキャスト「Inside of You with Michael Rosenbaum」に、Huey Lewis(ヒューイ・ルイス)さんが出演しました。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主題歌「パワー・オブ・ラブ」で全米1位を獲得した、あの歌手です。76歳になった彼が語ったのは、メニエール病で「ほぼ聞こえない」状態になり、音楽そのものを失ったという話でした(米音楽メディアConsequence、2026年7月10日)。
右耳を失って35年、片耳で25年歌った――そして左耳が「降参した」
「35年くらい前に右耳の聴力を失って、基本的に片耳で生きてきた。……そして左耳が降参した(bailed)。今は機械(人工内耳と補聴器)の助けがなければ、ほぼ聞こえない」
(TV Insider、2026年7月10日より、筆者訳)
右耳を失った当時、医師だった父親の紹介で有名な耳鼻科医を訪ねると、返ってきた言葉は「まあ、慣れるしかないね」。ジミ・ヘンドリックスもブライアン・ウィルソンも片耳だった、と励まされ、ルイスさんはその後25年、片耳の難聴のままステージに立ち続けました。
転機は2018年。ダラス公演の直前に残った左耳の聴力が急激に落ち、「低い音が激しく歪んで音程が取れない」(当時の本人声明)として残りのツアーをすべて中止。以来、一度もステージに立っていません。
人工内耳で会話は聞けるのに、音程が分からない――「みんなヘリウムを吸ったような声」
「左耳に人工内耳、右耳には普通の補聴器。パソコンにもスマホにもつながる。でも、基本的には聞こえていない」
「人はみんな、ヘリウムを吸ったみたいな声に聞こえる。だから音程が色づいてしまう。音程を聞き取るのは不可能。でも会話はできる」
(Consequence、2026年7月10日より、筆者訳)
ルイスさんの説明はこうです。人工内耳は音を「デジタルの断片」に分解するので、言葉は追える。しかし音楽は倍音を含む多くの周波数が一度に押し寄せるので、歪んでしまう。実際、人工内耳は十数〜二十数本の電極で聴神経を直接刺激する仕組みです。数千の有毛細胞が担っていた周波数の分解を粗く肩代わりするため、言葉の聞き取りには強く、音程や音色の再現は苦手とされています。
「もう8年半。人生は計り知れないほど変わった。音楽はもう人生の一部ではない。飲み込むのがつらい薬だよ(a hard pill to swallow)」とルイスさんは言います。家では、好きだったビッグバンドやニューオーリンズ・ジャズのレコードもほとんどかけなくなったそうです。「ビートは分かる。何が起きているかは分かる。でも楽しめない」と。
めまい・耳鳴り・進行する難聴――薬草も断食も試したメニエール病
メニエール病は内耳のリンパ液が増えすぎることで起こるとされ、主な症状は回転性のめまい発作、耳鳴り、耳のつまり感、そして変動しながら進行する難聴。難聴は低い音から始まることが多く、根本的な治療法はまだないと言われています。
ルイスさんの診断は1990年代半ば(公表は2018年)。めまいの発作は35年以上前からあったといいます。薬草、西洋医学、断食、肉も塩も抜く食事まで試したものの、病状は悪化し続けました。「ある時点で、現実を受け入れなきゃいけない(face the music)」とルイスさんは振り返ります。「常に軽いめまいがある」(2024年、People誌)と語った状態は、今も続いています。歌手やアーティストにとって、聞こえは楽器そのもの。とりわけ音程は、歌う仕事の生命線です。会話は成り立つのに歌えない。ルイスさんの状態は、「聞こえる/聞こえない」の二択では語れない聞こえの難しさを示しています。
「聞こえは要らない」フライフィッシングと、完全埋め込み型の人工内耳への期待
音楽を失った後、ルイスさんの拠り所はフライフィッシングです。「本当によく釣りに行く。ひとりで川に立って、フライロッドで自然を指揮している。聞こえは要らないんだ」とルイスさんは語ります。
技術への期待も語りました。皮膚の下に完全に埋め込むタイプの人工内耳が実現すれば、「たまに小さな充電器を耳につけるだけ。泳げるし、夜も眠れる」とルイスさんは期待を寄せます。音楽が戻る見込みは薄くても、暮らしはもう少し楽になるかもしれない。76歳の彼は、そう淡々と語っています。片耳で25年、そして両耳を失って8年半。世界的ヒットを持つ歌手ですら、耳の変化とはこれほど長い付き合いになるのです。
【余談】人工内耳ユーザーの「音の違いが分かるようになった」――聞こえを支える耳の脳トレ
ここからは本題を離れて、私たちneumoの話を少し。ルイスさんの「会話は聞こえるのに音程が分からない」という言葉は、聞こえが耳だけでなく、届いた音を脳がどう処理するかにも支えられていることを示しています。私たちは、脳科学をベースにした聴覚トレーニングアプリ「キクモア」を開発・運営しています。「耳の脳トレ」として、騒がしい場所での聞き分けや音の違いの識別をゲーム感覚で鍛える内容です。
App Storeには、人工内耳を使っている方からこんな声が寄せられました(個人の感想です)。
「語音明瞭度アップ。人工内耳ユーザーです。騒音下での聴き取り向上のため、キクモアトレーニングを始めました。当初は妨害音に苦戦していましたが、毎日続けるうちに、音の違いが分かるようになりました。」
(App Storeレビュー、2026年7月20日)
キクモアはメニエール病や人工内耳を対象にした医療機器ではなく、感じ方には個人差があります。それでも、「機械が届けた音を脳がどう受け取るか」は、鍛える余地のある領域だと私たちは考えています。「最近、聞き返しが増えたかも」と感じたら、まず耳鼻咽喉科で状態を確かめること。そのうえで日々の聞こえを鍛えていくこと。その両方に意味があるはずです。
[PR] 脳の聞く力を鍛える「キクモア」
キクモアは、スマホアプリで日々トレーニングすることで脳の聞く力を鍛える耳の脳トレです。→キクモア聞こえのトレーニング


