補聴器で認知症は防げる? 加齢性難聴と認知機能低下の研究レビュー

簡単なサマリー
結論から言うと、このレビュー論文だけでは、補聴器によって認知症を予防できるとは結論づけられません。一方で、加齢性難聴を早期に把握し、補聴器や認知トレーニングを組み合わせることで、認知機能低下を遅らせられる可能性があるとして、今後の介入研究の必要性が示されています。
今回紹介するのは、2015年にNature Reviews Neurologyへ掲載されたレビュー論文です。新たな参加者に補聴器を装用して効果を比較した臨床試験ではなく、加齢性難聴、認知機能低下、認知症、アルツハイマー病、フレイルに関する既存研究を整理した論文です。
レビューでは、加齢性難聴が、認知機能低下の加速、新たな認知機能障害の発症、アルツハイマー病と関連することを示した疫学研究がまとめられています。耳で音を捉える末梢聴覚の低下だけでなく、脳が音声を整理して意味を読み取る中枢聴覚処理の低下も、軽度認知障害やアルツハイマー病と関係する可能性が論じられています。
関連を説明する経路として、会話の難しさによる社会的孤立や孤独、聞き取りに多くの認知資源を使うことによる認知予備能への負担、炎症や血管要因などフレイルと共通する背景が挙げられています。ただし、これらは関連を説明する仮説であり、難聴が認知症を直接引き起こすと証明されたわけではありません。
要点
- この論文は、補聴器の認知症予防効果を直接検証した介入試験ではなく、既存研究を整理したレビュー論文です。
- 疫学研究では、加齢性難聴が、認知機能低下の加速、認知機能障害の発症、アルツハイマー病と関連していました。
- 関連を説明する経路として、会話の難しさ、社会的孤立、孤独、認知予備能への負担が挙げられています。
- 末梢の聴力低下だけでなく、中枢聴覚処理の低下や、炎症・血管要因を含むフレイルとの共通背景も検討されています。
- 補聴器や認知トレーニングの可能性は示されていますが、認知症予防効果を確定するにはランダム化比較試験が必要です。
補聴器と認知機能についてレビューが示したこと
補聴器の認知症予防効果はまだ証明されていない
このレビューは、補聴器を装用すれば認知症を予防できると証明したものではありません。著者らは、加齢性難聴を認知症やアルツハイマー病に関係する可能性のある、介入可能なリスク因子として位置づけています。そのうえで、早期の診断と補聴器、認知トレーニングを組み合わせることで、認知機能の低下を遅らせたり、予防したりできる可能性を論じています。
ただし、これは確立した治療効果を示す結論ではありません。レビューのAbstractでも、補聴介入の効果を確認するためには、ランダム化比較試験と、より大規模な地域住民を対象とした研究が必要だとされています。
加齢性難聴と認知機能低下の関連
加齢性難聴と認知機能低下との関連は、複数の疫学研究で報告されていました。レビューでは、加齢性難聴がある人で、認知機能低下が速いこと、その後に認知機能障害が生じること、アルツハイマー病と診断されることとの関連が整理されています。
一方で、観察研究で関連が示されたことと、難聴が認知症の原因であることは同じではありません。難聴が認知機能低下を促す可能性だけでなく、認知症の初期変化が聴覚処理に表れている可能性や、難聴と認知機能低下の両方に関係する別の要因が存在する可能性もあります。
聞こえにくさと社会的孤立
聞こえにくさは、会話と社会的なつながりに影響する可能性があります。加齢性難聴が進むと、単に音が小さく聞こえるだけでなく、会話の内容を正確に理解することが難しくなる場合があります。会話への参加が負担になると、人との交流や外出を避けるようになり、社会的孤立や孤独につながる可能性があります。
レビューでは、こうしたコミュニケーションの制限が、加齢性難聴と認知機能低下との関連を説明する経路の一つとして挙げられています。ただし、社会的孤立が両者の関係をどの程度説明するのかは、確定していません。
聞き取りの負担と認知予備能
聞き取りに必要な認知的負荷も、想定される経路の一つです。聞こえにくい音声を理解しようとすると、注意力や作業記憶など、より多くの認知資源を聞き取りに割く必要があります。その結果、記憶や思考など、ほかの認知処理に使える余力が少なくなる可能性があります。
この余力に関係する概念が、認知予備能です。認知予備能とは、脳に病理学的な変化が生じても、認知機能を一定程度保つための余力を表す考え方です。レビューでは、聞き取りにくい状態が続くことで認知予備能への負担が増し、認知症の症状が早く表面化する可能性が論じられています。
末梢聴覚と中枢聴覚処理
聴覚は、耳の機能だけでなく、脳内の処理まで含めて考える必要があります。末梢聴覚は、主に耳や蝸牛で音を捉える働きです。一方、中枢聴覚処理は、耳から入った音を脳で整理し、言葉や意味として認識する働きを指します。
レビューでは、末梢の聴力低下だけでなく、中枢聴覚処理の低下も、認知機能低下やアルツハイマー病と関連する研究が紹介されています。中枢聴覚処理の機能低下は、軽度認知障害やアルツハイマー病の人にも多くみられ、その評価が、認知機能低下のリスクが高い高齢者の把握に役立つ可能性があります。
ただし、中枢聴覚処理の検査だけで認知症を診断できるという意味ではありません。認知機能や認知症の評価には、病歴、生活状況、神経学的評価、認知機能検査などを含む総合的な判断が必要です。
加齢性難聴とフレイルの共通背景
加齢性難聴は、フレイルを示す指標となる可能性もあります。フレイルとは、加齢に伴って身体の予備力が低下し、病気や生活環境の変化などのストレスに弱くなった状態です。
レビューでは、加齢性難聴を耳だけの問題として捉えるのではなく、全身の加齢変化を反映する可能性のある指標として捉えています。炎症に関係する要因や血管系の要因は、加齢性難聴、身体的フレイル、認知機能低下の複数に関係する可能性があります。
そのため、難聴が認知症を引き起こすという一方向の関係だけでなく、難聴、認知機能低下、フレイルに共通する背景要因が存在する可能性も考える必要があります。
補聴器に期待される役割と残る課題
補聴器の役割については、可能性と証明済みの効果を分けて考える必要があります。補聴器によって聞き取りを支援し、会話や社会参加を保つことが、認知的負荷や社会的孤立の軽減につながる可能性はあります。しかし、このレビューから、補聴器を使用すれば認知症を予防できる、あるいは認知機能低下を確実に止められるとは判断できません。
本論文は2015年に公表されたレビューであり、紹介されているのは当時までに公表された研究です。単一の介入試験の結果でも、現在の診療指針でもありません。
このレビューから読み取れること
このレビューから読み取れるのは、加齢性難聴を放置されやすい耳の問題としてだけでなく、認知機能、会話、社会参加、認知予備能、フレイルを含む高齢期の健康全体との関係から評価する必要があるということです。一方で、補聴器による認知症予防効果を判断するには、適切に設計された介入研究が必要です。
元論文
Panza F, Solfrizzi V, Logroscino G. Age-related hearing impairment—a risk factor and frailty marker for dementia and AD. Nature Reviews Neurology. 2015;11:166–175.
DOI:10.1038/nrneurol.2015.12
neumo 若林龍成メモ
このレビュー論文では「補聴器が認知症を防ぐ効果がある」ということは証明されませんでした。
一方で、今後の研究として補聴器使用に加えてキクモアのような脳の聴覚機能に関わるトレーニングを並行して行った場合、認知機能にどのような影響を及ぼすのか興味が湧きました。
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