難聴が重いほど認知症との関連も強い?韓国38万人の追跡研究

難聴の重症度と認知症診断の統計的関連を示す韓国38万人の研究の概念図

韓国の全国保険データと障害登録データを使った研究で、障害登録上の難聴がある人は、年齢と性別をそろえた対照群より、その後に認知症と診断されるハザードが高いことが示されました。全認知症の調整ハザード比は、第6級群1.257、非重度群1.312、重度群1.336でした。

対象は40歳を超える38万2,404人です。聴覚障害登録群19万1,202人と対照群19万1,202人を、2010年から2017年まで追跡しました。65歳未満では関連がより大きく、重度群の全認知症の調整ハザード比は1.933でした。

ただし、これは後ろ向きの観察研究です。難聴が認知症を引き起こすと証明したものではなく、ハザード比は個人の発症確率を示す数字でもありません。また、対象の中心は韓国の障害登録基準を満たす高度〜重度の難聴であり、一般的な軽度難聴へそのまま当てはめることはできません。

どのような研究だったのか

項目 内容
研究デザイン 韓国の全国データを用いた後ろ向きコホート研究
対象 40歳超の38万2,404人
比較 聴覚障害登録群19万1,202人と、年齢・性別を対応させた対照群19万1,202人
追跡 2010〜2017年、平均約6.6〜7.0年
難聴の分類 重度群(第1〜3級)、非重度群(第4〜5級)、第6級群
認知症の判定 ICD-10診断コードと抗認知症薬の処方記録
主な調整項目 年齢、性別、所得、糖尿病、高血圧、脂質異常症、脳卒中、心疾患など

第6級群は単純な「片側難聴」ではありません。基準は悪い側が80dB以上、反対側も40dB以上です。また、障害登録には複数回の純音聴力検査と、聴性脳幹反応または聴性定常反応による確認が必要でした。

主な結果

グループ 全認知症の調整ハザード比 95%信頼区間
対照群 1.000 基準
第6級群 1.257 1.217〜1.299
非重度群 1.312 1.286〜1.338
重度群 1.336 1.306〜1.367

全認知症では、障害登録上の難聴が重い群ほど調整ハザード比が高い並びになりました。アルツハイマー型認知症でも同様の傾向がみられましたが、血管性認知症と「その他の認知症」では、重症度に沿った一直線の並びにはなっていません。

65歳未満の全認知症では、調整ハザード比が第6級群1.601、非重度群1.880、重度群1.933でした。これは追跡中の相対的なハザードの比較であり、「重度群の93.3%が認知症になる」「個人の発症確率が約2倍になる」という意味ではありません。

なぜ難聴と認知症の関係が注目されるのか

難聴と認知症は、どちらも年齢とともに増えやすい状態です。そのため、両者に統計的な関連が見つかっても、単に年齢の影響を見ているのか、心血管疾患などの共通要因があるのか、難聴そのものが認知機能に関係するのかを切り分ける必要があります。

考えられている経路には、聞き取りに注意や作業記憶を多く使う「聴取負荷」、会話や社会参加の減少、聴覚入力の低下に伴う脳ネットワークの変化、難聴と認知症に共通する血管・神経要因などがあります。

一方、観察研究だけでは、難聴が原因なのか、認知症の前臨床的な変化が聴覚や受診行動に影響したのか、別の要因が両方に関係したのかを完全には区別できません。今回の研究は関連の大きさを示したもので、仕組みを直接確かめた研究ではありません。

この研究をどう読むか

この研究の強みは、38万人を超える集団を長期間追跡し、障害登録上の難聴を客観的な検査で確認していた点です。重い難聴を大規模に比較できたため、全認知症と難聴の重症度との関連を比較的精密に推定できました。

一方で、認知症は診療記録と薬剤処方から判定され、対照群全員に登録群と同じ聴力検査を行ったわけではありません。教育歴、喫煙、抑うつ、社会参加など、測定されていない要因も残ります。そのため、結果は「障害登録上の難聴と認知症診断に関連があった」と読むのが適切です。

補聴器や人工内耳の使用状況も評価されていないため、この研究から認知症予防効果は判断できません。同様に、聞こえのトレーニングや耳の脳トレの効果を示す研究でもありません。介入の効果を確かめるには、装用状況やトレーニング内容を記録した前向き研究や無作為化試験が必要です。

まとめ

韓国38万2,404人の追跡研究では、障害登録上の難聴が重い群ほど、全認知症の調整ハザード比が高い傾向が示されました。重度群の調整ハザード比は1.336で、65歳未満では1.933でした。

ただし、これは集団レベルの統計的な関連です。難聴が認知症の原因であること、個人の発症確率、軽度難聴への適用、補聴器・人工内耳・聞こえのトレーニングの予防効果までは示していません。

原論文

  • Chang YS, Rah YC, Lee MK, et al. Association between the severity of hearing loss and the risk of dementia within the 2010–2017 national insurance service survey in South Korea. Scientific Reports. 2020;10:20679. https://doi.org/10.1038/s41598-020-77752-1

関連論文

本記事は研究論文の内容を一般向けに整理したもので、個人の診断、治療、補聴器の選択、認知症リスク判定を行うものではありません。

neumo 若林龍成メモ

難聴だから認知症になるということを示した論文ではありませんが、難聴、しかも難聴の重症度が認知症リスクと関係する可能性を改めて示唆する論文です。 今後、補聴器などの介入が認知能力にどのような影響を与え得るのかについて、韓国など諸外国のデータが集まることを期待します。

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