難聴が重いほど認知症発症ハザードが上昇 正常聴力比で軽度1.89倍、中等度3.00倍、高度4.94倍

簡単なサマリー
難聴と認知症の発症には関係があるのでしょうか。この研究では、米国のBaltimore Longitudinal Study of Aging(BLSA)に参加した、研究開始時点で認知症のない36~90歳の639人を対象に、純音聴力検査の結果と、その後の認知症発症との関連を調べました。追跡期間の中央値は11.9年でした。
追跡中に58人が全原因認知症(原因を問わない認知症)を発症し、そのうち37人がアルツハイマー病と診断されました。年齢などの要因を調整した分析では、ベースラインの聴力閾値が10dB高いごとに、全原因認知症の発症ハザードは1.27倍でした。正常聴力と比べると、発症ハザードは軽度難聴で1.89倍、中等度難聴で3.00倍、高度難聴で4.94倍でした。ただし、難聴が認知症を直接引き起こすと証明した研究ではありません。
要点
- 研究開始時点で認知症のない36~90歳の639人を、中央値11.9年間追跡した前向き研究です。
- 追跡中に、58人が全原因認知症を発症し、そのうち37人がアルツハイマー病と診断されました。
- 年齢、性別、人種、教育年数、糖尿病、喫煙、高血圧を調整した分析では、聴力閾値が10dB高いごとに、全原因認知症の発症ハザードは1.27倍でした。
- 正常聴力と比べた発症ハザードは、軽度難聴で1.89倍、中等度難聴で3.00倍、高度難聴で4.94倍でした。
- アルツハイマー病だけに限った分析では明確な関連は示されず、観察研究であるため、難聴と認知症の因果関係は断定できません。
研究内容と結果
この研究は、米国国立老化研究所が実施するBaltimore Longitudinal Study of Aging(BLSA)の参加者を対象に行われました。1990~1994年に少なくとも1回の研究訪問を行った1,305人のうち、976人が聴力検査を受け、749人が聴力検査と認知機能評価の両方を受けていました。研究開始時点ですでに認知症だった58人、Blessed Information Memory Concentration Testで3個を超える誤答があった39人、認知症が疑われた13人を除外し、639人を解析対象としました。
聴力は、防音室で補聴器を使用しない状態で測定されました。0.5、1、2、4kHzの純音聴力閾値の平均を左右それぞれで算出し、日常の聞こえをより反映すると考えられる聞こえの良い側の耳の平均値を分析に用いました。聴力閾値は、数値が高いほど、より大きな音でなければ聞こえないことを意味します。
参加者は、聞こえの良い側の耳の平均聴力閾値に基づき、正常聴力(25dB未満)455人、軽度難聴(25~40dB)125人、中等度難聴(41~70dB)53人、高度難聴(70dB超)6人に分類されました。
認知症は、神経学的検査と神経心理学的検査などの情報を基に、多職種による合議で判定されました。参加者は2008年5月31日まで追跡され、追跡期間の中央値は11.9年でした。その間に、58人が全原因認知症を発症し、そのうち37人がアルツハイマー病と診断されました。
主要な分析では、時間の経過を考慮するCox比例ハザードモデルが用いられました。共変量に欠測があった1人を除く638人を対象に、年齢、性別、人種、教育年数、糖尿病、喫煙、高血圧を調整した結果、聴力閾値が10dB高いごとの全原因認知症のハザード比は1.27でした(95%信頼区間:1.06~1.50)。
正常聴力を基準にすると、全原因認知症のハザード比は、軽度難聴で1.89(95%信頼区間:1.00~3.58)、中等度難聴で3.00(95%信頼区間:1.43~6.30)、高度難聴で4.94(95%信頼区間:1.09~22.40)でした。
ハザード比は、追跡期間中の発症の相対的な速さを表す指標であり、発症する人の割合そのものではありません。また、高度難聴群は6人だけだったため、推定値の不確実性が大きく、信頼区間も広くなっています。
アルツハイマー病だけを結果として分析すると、聴力閾値が10dB高いごとのハザード比は1.20でしたが、95%信頼区間は0.94~1.53で1を含んでいました。このため、この研究だけでは、難聴とアルツハイマー病発症との明確な関連が示されたとはいえません。
ベースラインから2年、4年、6年以内に認知症と診断された参加者を解析上打ち切る感度分析、ベースラインの認知機能スコアを加えた分析、年齢を時間尺度に用いた分析、65歳以上に限定した分析、脳卒中または一過性脳虚血発作の既往がある人を除いた分析でも、主な結果は大きく変わりませんでした。
自己申告による補聴器使用は、認知症ハザードの低下と関連していませんでした(ハザード比0.97、P=0.92)。ただし、補聴器の種類、1日の装用時間、使用年数、リハビリテーションの内容などは調べられていません。そのため、この結果から「補聴器には認知症予防効果がない」と結論づけることはできません。
著者らは、難聴と認知症が関連する可能性として、聞き取りに多くの認知資源を使うことによる認知予備能への負担、コミュニケーションの難しさによる社会的孤立、難聴と認知機能低下に共通する病理学的要因などを挙げています。ただし、これらの仕組みをこの研究で直接検証したわけではありません。
この研究には複数の限界があります。聴力はベースライン時点だけで評価され、その後の変化や難聴の原因は把握されていません。難聴と認知症はいずれも年齢と強く関連するため、統計的に年齢を調整しても、残余交絡が残る可能性があります。高度難聴群は6人と少なく、推定値の幅が大きい点にも注意が必要です。
また、BLSAは社会経済的地位が比較的高いボランティア集団であり、結果を一般の地域住民にそのまま当てはめることはできません。
この研究は、ベースラインの難聴が、その後の全原因認知症の発症と前向きに関連していたことを示しました。一方で、観察研究であるため、難聴が認知症の原因なのか、初期の認知症を示す指標なのか、別の要因が両方に関係しているのかは判断できません。今後は、より大規模で代表性の高い集団を対象にした研究や、聴覚リハビリテーションが認知機能や認知症発症に与える影響を検証する研究が必要です。
元論文
Lin FR, Metter EJ, O’Brien RJ, Resnick SM, Zonderman AB, Ferrucci L. Hearing Loss and Incident Dementia. Arch Neurol. 2011;68(2):214–220.
DOI:10.1001/archneurol.2010.362
neumo 若林龍成メモ
決して難聴=認知症という論文ではありませんが、難聴が認知症のリスクを高め得る、それを示唆する論文なのでやはり耳の健康が我々にとって非常に重要なことが分かります。
騒音への対策や日々の生活の見直し、そして補聴器使用の検討なども含まれると思います。
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