米国FDAがリジェネロン社の遺伝子治療「オタルメニ」を承認 ―― 先天性難聴に希望? 対象は「OTOF遺伝子タイプ」、では日本は

2026年4月、米国FDA(食品医薬品局)がリジェネロン社の「オタルメニ(Otarmeni)」を、遺伝性難聴に対する初の遺伝子治療として迅速承認しました。対象は、生まれつき重い難聴を起こすOTOF遺伝子のタイプ。遺伝子診断で確定していることが条件です。「生まれつきの難聴は治らない」が常識だった世界に、初めて風穴が開きました。
1回の注入で、8割の子どもの聴力が改善
オタルメニは、無害化したウイルス(AAV)を運び屋にして、正常なOTOF遺伝子を内耳に届ける薬です。手術は人工内耳の埋め込みとほぼ同じ手順で、全身麻酔のもと蝸牛に1回だけ注入します。承認の根拠になった臨床試験(CHORD試験)では、生後10か月〜16歳の24人が投与を受け、評価できた20人のうち80%で聴力が改善。追跡を続けると42%がささやき声も聞こえる正常範囲の聴力に達したと、リジェネロン社は発表しています。
条件は3つです。OTOF遺伝子の変異を両方の親から受け継いでいること(遺伝子診断で確定)、外有毛細胞の働きが保たれていること、その耳にまだ人工内耳を入れていないこと。迅速承認のため、今後の確認試験で効果の持続を示す必要があります。リジェネロン社は米国内の対象患者に薬を無償で提供すると表明しました(手術費用は別です)。
OTOF遺伝子とは ―― 耳は無事なのに「配線」が切れている
OTOF遺伝子は、内耳の有毛細胞が音の信号を聴神経へ手渡すときに使う「オトフェルリン」というたんぱく質の設計図です。このたんぱく質が作れないと、有毛細胞は音を受け取っても、信号を神経に渡せません。耳の構造も細胞もそろっているのに、最後の受け渡しだけが途切れている状態。だからこそ、設計図を1枚差し込めば元の働きが戻る、という発想が成り立ちます。生まれつきの遺伝性難聴のうち、OTOFが原因なのは数%とされる珍しいタイプです。
脳の検査で「怪しい」と分かり、遺伝子検査で「OTOF」と確定する
OTOFタイプには特徴的なサインがあります。新生児聴覚スクリーニングで使う耳音響放射(OAE)は、内耳の外有毛細胞が音に反応するかを見る検査。OTOFタイプではこの細胞は元気なので「正常」と出ます。一方、聴神経から脳へ信号が届くかを見る聴性脳幹反応(ABR)では、信号が脳まで届いていないという「異常」が出ます。OAEだけの検査ではすり抜けてしまうため、この組み合わせが手がかりになります。
原因を確定するのは遺伝学的検査です。日本では2012年から先天性難聴の遺伝学的検査が保険適用になり(世界に先駆けた制度です)、2015年からは次世代シーケンサーで多数の遺伝子をまとめて調べます。信州大学を中心に全国53施設が1万人余りを解析した研究では、生まれつき〜5歳までに発症した難聴の48.6%で原因遺伝子が特定できました。半数近くは「なぜ聞こえないか」が分かる時代。父母から1つずつ受け継いだOTOF遺伝子の両方に変異が見つかれば「OTOFタイプ」と分かり、米国なら遺伝子治療の候補になれるかを主治医と相談できます。
では、日本は?
オタルメニは今のところ米国だけの承認です。リジェネロン社は欧州で審査を受けており、日本を含む他の国でも申請を予定していると発表しています。一方、診断の土台は日本のほうが先を行っています。保険で遺伝子を調べられる仕組みが10年以上前から動いていて、宇佐美真一先生(信州大学)らが日本人の難聴遺伝子データを積み上げてきました。日本人の遺伝性難聴で最も多いGJB2遺伝子については、国内でも遺伝子治療の研究が進んでいます。
原因の遺伝子が分かると、この先の進み方の見通しや、補聴器・人工内耳を考えるタイミングの手がかりになるとされています。そこに「治療の候補になる」という選択肢が加わりました。今日OTOFと分かったお子さんが、数年後に日本で治療を受けられる。そんな未来が見えてきました。
少し話は変わりますが ―― 人工内耳ユーザーの「音の違いが分かるようになった」。耳の脳トレの話
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「人工内耳ユーザーです。騒音下での聴き取り向上のため、キクモアトレーニングを始めました。当初は妨害音に苦戦していましたが、毎日続けるうちに、音の違いが分かるようになりました。」
遺伝子は耳の入口を直し、脳は届いた音を言葉にする。届いた音を聞き分ける脳の力を鍛えたい――そう思われたら、キクモアがお役に立てるかもしれません。ぜひ一度お試しください。
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